kemoxxxxxの日記

kemo cityからの脱出

回る風車はクルクルと。【1】

☆この話はフィクションです。

「……じゃあ、明日の15時に履歴書を持参して店舗に来てください。場所は分かりますか。」

「はい!わかります。明日の15時に伺いますのでよろしくお願いします!」

「それではお待ちしてます。」

「はい!失礼致します!」ブチッ…ツーツー...

履歴書は書き上げた、用意してある。明日の15時か、緊張するなぁ。面接上手く行けばいいけど。

わたしは新卒で入社後、中堅どころの㈱岡六証券に勤めていたが1年半足らずで自主退職した。バブル崩壊後の氷河期世代と言われて、折角就職したのにも関わらずに簡単に上司に辞表を提出した。退職理由は自己都合のため。だが、上司と反りが合わずに辞めた。元来人間関係において我慢が出来ない性格なのである。

勉強だけは普通にこなせたが、人間関係の社会の競走では簡単に諦めてしまう性格をこれから直して行かなければならないなぁと、ただ漠然に思うだけ。しかしこれから先の人生に迷いはない。

明日面接の場所は「バカラリゾートパチンコグループ」。 わたし自身、実はギャンブルが物凄く大好きである。証券マンとしてのスキルもだいたい得たし、それでは!と思い、全く畑の違う就職先を選んだ。パチンコ店幹部生候補。正直給料にも惹かれた。手取りで月給で25万円だった。歩合制の証券マンより確実な収入である。

しかし本当にギャンブル好きだなぁと我ながら思う。思い切って辞めてパチンコ業界に就職するなんて。 爺ちゃんはここへの面接を反対した。岡六証券を退職する時もひとつの所で最低3年は勤めろと、辞めるまでうるさかった。

父と母は共に北海道庁に勤める地方公務員だった。ある程度裕福な家庭で育ったわたしだが、中学生2年生14歳の時に自動車事故で2人とも亡くしてる。父と母は仕事を終え家への帰りだった。

10tトラックが反対車線からはみ出し、父の車に正面から突っ込んできて衝突した。トラック運転手の居眠り運転によっておこった事故だった。父は即死だったが、母はICUで消えかかる命を必死に燃やしていたが、わたしの手を握ったまま息を引き取った。今でも途方に暮れたあの頃の記憶が頭から離れない。

当然加害者を恨んだ。でも恨み続けたところで父と母は戻って来ない。わたしの精神が病むだけだ。それを10年かけて解りかけてる。もう許した。

一瞬にして両親を失った、その後わたしは父方の両親、自身の爺ちゃんと婆ちゃんに育てられた。母方の婆ちゃんは健在だが、爺ちゃんはガンで若い時に亡くなっている。わたしは一人っ子だ。大学まで卒業させてくれた爺ちゃんと婆ちゃんの2人にはとても感謝している。これから恩返ししていかなきゃな。

父さん、母さん、第2の人生頑張るよ俺!



翌日30分前には店舗に着いていたわたし。

このバカラグループは全国展開して現在業界では勢いのある、パチンコ店だ。札幌にも新たに出店してまだ間もない新店舗である。わたしは1階のインフォメーションフロアの席に腰を降ろし、煙草に火をつけた。

まだあと25分ある。落ち着かない。ネクタイを緩め、しめる。汗が滲む。

5分前行動、いやわたしは10分前行動が日々身についていた。それが逆に損な性格でもある。時間をこうやって無駄にしている。1本、2本と吸わさる煙草。何故?証券会社を辞めた理由はどう答えよう?人間関係では良くない。両親の事も聞かれるだろう。兄弟は?特技は?長所は?短所は?まぁいいや。

そうして考えている間に腕時計に目をやると、14時55分だった。急がないと!

ホールの目の前を歩く制服姿の従業員の方に声をかける。

「あの、すみません、今日面接に来た岩佐と言いますが…」

「わかりました…(インカム) 業務連絡します。ただいまこちらに面接の方が来てるんですが、事務所の方へ案内してもよろしいでしょうか?……了解しました、」

「じゃ、こちらへどうぞ」「あ、はい!」



コンコン、ガチャ。

「失礼します。ご苦労様です!」(従業員が45度のお辞儀をしていた。)

従業員は大きな声で挨拶していた。厳しそうだな…

「はーい、ご苦労さん」(店長らしき...人物。眼鏡をかけた中年男性。普段着でスリッパを履いていた。)

「失礼します!」(従業員)

「はーい。」

「こっち座って掛けてどうぞ」(広い事務所内には壁一面に防犯カメラのモニターが広がっていた。)

(黒い本革のソファーに座る)「はい、失礼します。わたし昨日面接のお電話をかけました岩佐太郎と申します。こちらが履歴書になります。」

「はい、岩佐さんね、ちょって見せてね」そう言うと店長らしき人物は履歴書を舐めるように見入っていた。事務所には従業員同士でのやり取りのインカムが響く。

しばらく無言だった。

「ふうーん、岡六証券にいたのかい。なんでまたウチに来たの。」

「はい、わたし自身パチンコが物凄く好きなものでして、将来パチンコの釘を叩く店長になりたいと思い、前職を辞めさせて頂き、今回こちらに応募させて貰いました。」

「大学は、北海学園か。ずっと札幌なの?」

「はい、札幌で生まれて学校もすべて札幌です。」

「確か寮希望だったね?」「はい入寮希望です。」

「車持ってんの?」「はい所有してます。」

「独身かい?」「はい、アパートで一人暮らししてます。」

「両親は?」「実は両親は2人ともわたしが14歳の時に亡くなりまして……(事情を話した)」

「わかりました。じゃあね、後日合否の電話かけますので、それまでよろしく。」

「はい、わかりました。あの失礼ですが、店長さんでいらっしゃいますか?」

「はい、店長。猪田です。」

「猪田店長ですね、どうぞよろしくお願いします。失礼します。」

従業員の真似ではないが深々頭を下げ、事務所を後にした。前職の事も詳しく聞かれなかったし、両親や爺ちゃん達のことも聞かれなかった。

大抵、両親のことを説明しても、皆に同情される。悲しまれる。別にそんな社交辞令的な同情はいらなかった。でもいつも孤独なわたしがいたのは事実かも知れない。婆ちゃんは婆ちゃんでしかないし、爺ちゃんはうるせぇ。

タクシーに乗ったわたしは婆ちゃんに早速携帯から電話をかけた。

アパートに帰宅後、2日経ったが合否の電話は来ていない。うーん、違うパチンコ店にも面接受けておくか。

ある程度の貯金があったので、そう急がなくても良い。パチンコでも打ちに行こう。昼下がりにいつものパチンコ店に入店して、3千円のパッキーカードを買い、CRモンスターハウスが並ぶ台を見ながら着席した。

千円で平均25回は回る、良いかも知れない。だがリーチが掛からない。2枚目の3千円パッキーを買ってカードリーダーに入れる。煙草に火をつけた、缶コーヒーを飲む。

その時、ポケットに入れていた携帯電話のバイブが震えた。わたしは慌ててセブンスターの煙草をドル箱に放り、パッキーを入れたまま店外に出る。

「はい!もしもし!岩佐の携帯です。」

「もしもし、岩佐さん?面接の結果ですけど、店長からOKいただきました。いつから入寮できますか?」

「ありがとうございます。今から準備したりしますので、来週には伺えます。」(この日は土曜日。)

「わかりました。じゃ、月曜でいいかな?月曜の13時に事務所来て貰えるかな?」

「はい、わかりました。」

「何かあったら店に電話してください。私、主任の坂下って言いますのでよろしくお願いします。それでは失礼します。」

「はい。失礼します。」

月曜から忙しくなりそうだ。アパートにはほとんどこれと言って何も無いので、身体だけ移ればいい感じ。

次回【2】へ続く

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